2015年8月27日木曜日

ECMの過去・現在・未来

毎度のご挨拶と化していますが、ご無沙汰しております。

AIIMが「ECMの次」をあからさまに模索している中、改めてECM業界に寄せられる期待について、この15年で感じた変化についてまとめたいと思います。

ECMってなんだっけ?

ECM(JIIMAの訳語では統合文書情報マネジメント)とは、企業の文書情報管理の基盤を中央集権的に持ち各業務システムと連動させることで、一貫したポリシーに基づいた文書情報の管理を実現するコンセプトであり手法を意味します。これはかつて流行したIT業界3文字略語の特徴をそのまま備えた用語なので、ERPがそうであるように、手法・コンセプトを意味すると同時に、ツールとしてのパッケージソフトウェアを呼ぶ名前にもなっています。

過去

ソフトウェアとしてのECMは、技術的には3つの構成要素から成り立っています。(元々は2つでしたが、今では3つ目もほぼ必須と考えて良いでしょう)

  1. 文書ファイルを保管するファイルシステム(ストレージ)
  2. 文書のメタデータ(属性情報)を保管するデータベース
  3. 全文検索インデックス

の3つです。

「文書の本体と、その文書に関する付加情報(メタ・データ)を峻別しつつ一貫した管理ができること」という目的に即した構造です。紙文書のファイリングの文化を継承し、正しく分類整理することも重視されました。したがって、当時重視されていた機能は以下の様なものでした。

  • 階層化された整理構造に綺麗に文書を格納できること
  • 事前に明確に定義属性情報を一律に関連文書に割り付けること
  • 入力された属性情報に基づき素早く文書を見つけられること(後に全文検索も)
  • 各文書の最新版を明確化するための履歴管理と編集ロックができること

他にもそれまではサインや印鑑で担保されていた文書情報の確からしさを担保するためのワークフロー機能や、ユーザの行動履歴を保管する監査証跡などの機能もありましたが、それぞれにトレードオフがあり、すべてのユーザが利用するというところには至りませんでした。

現在

主にWebの世界が牽引したその後の情報システムの発展を受け、ECMのコアバリューも変化してきています。今、文書情報のより良い管理手法というものを考える時、紙文書のファイリングを踏襲したものとは異なる視点が導入されました。今、ECMに期待されている機能は以下の様なものです。

  • 文書と文書の関連性を保持すること
  • 後から定義された属性項目や任意のタグなどの動的なメタデータを文書に貼り付けられること
  • 他のユーザのアクティビティを把握できること
  • クラウドに文書を配置しデバイスを問わずアクセスできること

関連性

文書同士の関連付け情報はAlfrescoで言えばアソシエーション機能、いわゆるリレーションのことで、関連情報の使い方が業務毎にブレ幅が大きいため、以前はそれほど利用されていませんでした。しかし、例えば別々の組織・プロセスが主管している製造図面と施工図面を関連付けることで、メンテナンス時の障害から製品側へフィードバックを返すなどのフォロー業務の漏れをなくすことができたり、設計標準と設計図面を結びつけることで標準を更新したタイミングで影響を受ける図面を洗い出したり、ということができるようになります。

ECM製品は標準UIを持ち、そのままインストールしても文書の保管や版管理、アクセス権管理などのメリットを享受できる作りになっていますが、やはり他の業務システムの共通バックエンドとして利用されることでよりその効果が高まります。関連情報はまさに組織や業務を横断したトレーサビリティを実現する機能であり、その効能が理解されるようになるまでに少し時間がかかったということかもしれません。

動的なメタデータ

アスペクトやミックスインなどと呼ばれる、後付けの属性定義を実現する機能は比較的後発のものです。やはり、初期のECM製品はRDBMSへのマッピングが単純だったこともあり、(もちろん、業務ニーズが比較的固定的だったこともありますが)、こうした機能は提供されていませんでした。後付けが可能ということは、文書の分類(文書型定義)とは別に個別の文書に対して貼り付けることが可能ということでもあります。

しかしこの機能は、変化する業務要件に対して追随するための型定義を行っていくということなので、実務上はやはりハードルが高かったと言えそうです。かわりに、最近よく活用されているのが、タグ付けの機能です。

元々、伝統的な文書管理の慣習にのっとって綺麗な階層構造を持たせなくても検索機能さえ十全に備えられていれば管理精度は落ちない、という考え方が少しずつ市民権を得てきていたという経緯もあります。その上で、タグ付けによる情報整理の効能をyoutubeなどのコンシューマ向けのWebサイトで各ユーザが学習してきているので、アスペクトやミックスインのような学習障壁の問題がなく、実際によく活用されている機能と言えそうです。

弊社ではこれらの点も踏まえてNoSQLベースのECMを開発しました!!(宣伝)

アクティビティ

監査証跡はとにかくログを残しておいて有事の際に証拠や手がかりとして使おうというものでした。使うかどうかもわからない情報の記録に毎回コンピュータリソースを消費し、ストレージも占有するということもあって、よく吟味した上で適応を見送る、というケースも散見されました。

各製品のWeb化が完了した後の世代になるとWriteイベントは補足するがReadに関してはWebサーバのアクセスログで代替する、なんていうケースもありました。

SNSの台頭と、タイムラインビューの一般化を受けて、自分や同僚の直近の活動履歴を表示共有することのコラボレーション上のメリットが注目され、現在では監査証跡よりもこちらにより強い関心を持たれてるという印象です。(もちろん業務領域によっては監査証跡の方が有効であるケースはあります)

クラウド(とモバイル)

数年前まではECMベンダ各社ともクラウドは重要なトレンドだがECMへの適用は後回しになるだろう、と主張していました。現在では、クラウドに乗せるべきものは積極的に乗せてそのメリットを享受しよう、という主張が一般的です。

Dropboxライクな環境を業務システムの世界に導入するための、EFSSなんていうキーワードも出てきています。

ただ、やはりあくまでハイブリッド、使い分け、というのがECM業界全体のスタンスということではありそうです。すべてがクラウドに乗るわけではない、と。

弊社ではオンプレミスリポジトリに対してもファイル同期を行える製品をご提供しています(宣伝)

そして、未来

将来についても幾つか考えていることがあります。整理しきれていませんが、簡単に頭出しだけ。

まず、ソーシャル系の機能、例えばいいね!ボタンなどは現在の製品にも搭載されていて場所によっては使われています。しかし、その本格的な活用はまだこれからだと思います。

次に、アナリティクス系の機能、これも現在進行形の商談のスコープに入ってきているという認識ですが、やはりまだまだ発展途上だと考えます。ログや全文検索インデックスへの解析には一定の成果がありますが、機械の主張・助言を業務上どのレベルの「確からしさ」があると判断するのか、というハードな問題をこれから段階的に解いていく、というのが事の本丸ではないかと考えています。

次に、ソーシャルグラフとアグリゲーション。友達の友達まで開示、などという権限モデルは現在の通常の業務システムにはないものですが、「なんでも完全公開というのはナンセンスだが、なるべく共有は進めたい」という考え方はそれなりに一般的なものであるので、一定のニーズがあるのではないかと思います。さらに、アクティビティやここのコンテンツについても、自分以外のメンバーに「読んでもらう」「気がついてもらう」ということに意識的な仕組み作りの必要性もあるのではないかと考えます。詳細はまた機会があれば!

最後に、プルリクエスト。少し前に就労規則をGithubで公開、さっそくプルリクも! というニュースがありました。文書に関してもプルリクエストベースのコラボレーションの効能というのは間違いなくあると思います。問題は、差分ベースのコンテンツ管理というのは、ECMの基本思想とある意味で正面からぶつかるということですね。ECMは、広く多様な業務にかかわるコンテンツを抱え込むために文書本体には手出しをせず外側に管理情報を付加するという手法を採用してきました。対立するコンセプトとしては例えばXMLデータベースなどではタグ単位での差し替えなどが可能でしたし、ソースコード管理システムを下敷きにした差分管理に特化したソリューションなどもありましたが、これまでのところECM以上の成功を収めてはいません。もしかしたら単に早すぎただけかもしれませんし、中央集権的なリポジトリを実現するためにはやはり「中身」に入り込むと破綻するのが世の真理なのかもしれません。しかしながら、差分情報を複数のユーザが取り交わせるという業務スタイルの強力さは、人を引きつけるものがあると思います。これも深掘りすると長くなるので、詳細はまたということで・・・

(文責 Ishii Akinori IT-Coordinator)

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