2016年3月3日木曜日

ECMサミット2016(冬)開催しました

例によって、かなり出遅れた開催報告です。申しわけありません。

まず一番大切なことから。資料ダウンロードをようやく開始しました。ご参加頂いた方々も是非またご覧になってください。

今回のテーマについて

ECMのミライ〜知識・協働・ディスカバリーの先へ〜というテーマを掲げました。ミライという言い回しはマーケティングのバックグラウンドを持つ先代委員長梅原さんのお知恵をお借りしてつけたものです。委員会内でのディスカッションにおいて、

「アメリカに対して日本はこんなに遅れている」という一本調子には皆食傷していると思うが、日本でもコンテンツ管理に課せられる責任や課題はとっくに変化している。各企業は新しい課題に個別に対応しつつも、それをコンテンツ管理や文書管理というキーワードと結びつけて考えていないということではないか。

という論点が浮かび、それをサミットのテーマにいかに落とし込むかというご相談をさせて頂きました。

この論点・問題意識は委員会中核メンバーである富士通総研の小林さんの最初のプレゼンで丁寧にカバーされていると思います。

一定以上の規模の組織においてはその管理運用状態は別として、文書管理規程がすでに整備されていることが多いはずです。しかし、ほとんどの場合それは「紙の」「完成した」文書の管理ルールを定めたものか、そのルール自体はそのままに対象範囲だけを「電子的な」文書に拡大しただけのものであると考えられます。言い換えると、

  • いわゆる文書管理規程とは完成された文書に限定された管理ルールである。
  • それが限定されているのは成立した時点では電子的な文書作成プロセスが現在の様に一般化されていなかったからである。

ということになります。しかし、一方で例えば個人情報保護であるとか、情報セキュリティであるとか、ITの普及に伴い各企業において情報全般を管理したり保護したりするためのルールはこれまでも強く要請され、実際にそうした管理体制を整えてきてもいるわけです。これらの電子的情報に関するルールと文書管理規程は縦割りで完全に分離されているのが多くの企業の現状ではないでしょうか。

その分離の問題に焦点をあてるというのが、今回のテーマの狙いの1つでありました。

なぜディスカバリーを取り上げたか

知識・協働・ディスカバリーという副題に並べたキーワードですが、恐らく多くの人にとってディスカバリーだけが馴染みが薄く、また具体性の高い単語であったかと思います。知識はナレッジマネジメント、協働はコラボレーション、という言い方でこれまでのECM関連の話題の中でもそれなりに触れられてきたものです。(ナレッジマネジメントもコラボレーションも、「完成済み」文書の保管庫としてだけないリポジトリの活用用途の典型的なシナリオと言えます)

それでもあえて具体的にディスカバリーを取り上げたのには理由があります。1つはこれが日本の特に製造業などの輸出産業において非常にクリティカルな問題となり得るのではないかという危機意識です。もう1つは、ECM委員会としてECMというメリットが分かりづらい技術・コンセプトを説明する具体的な事例としての分かりやすさです。

危機意識については詳細は資料等をあたって頂くべきかと思いますが、アメリカの裁判制度においては自身の主張とは無関係に係争のテーマと関係する証拠情報をまとめて期日までに提出する義務があり、それを果たせないとペナルティが科せられる、というの制度上のギャップが問題になります。

今日では電子的な情報はあちこちに残すことができるため、紙の時代では捨てられていたあるいは「捨ててしまった」と主張しても無理がなかったメモや細かいコミュニケーションの履歴も、証拠性を持ち得るとされます。となれば、それらの情報を整理していつでも取り出せたり、あるいは削除すると決めたら確実に削除しているという運用実態を示せないと、本当に関係するかどうかわからないもの含めて全部さらけ出さなければならなくなります。さらに専門家(弁護士)がその1つ1つをチェックするわけです。それにも莫大なコストがかかります。

残念ながら、ECMの様な統合的な管理基盤や、完成済み文書に限定されない文書管理ルールを持つ日本企業はまだまだ稀であると言わざるを得ません。情報の削除についても仮にルールがあったとしても運用実態としては怪しいものがあります。(例えば、メールサーバのメールが定期的に削除されるのでローカル保存をしている、というナレッジワーカーはたくさんいるはずです)

したがって、アメリカのルールでの裁判に巻き込まれた場合、日本企業は大きなハンデを背負うことになるわけです。ここにかかるコストとかペナルティは実際の判決とは無関係だということが重要です。悪意を持って喧嘩をふっかけられた場合、などでも対処の仕方が難しいわけです。このあたりはオープンテキストの大沢さんの講演で詳しく説明がされました。(残念ながら、公開用の資料は頂けなかったのですが)

大沢さんの講演は、パテントトロルなどの例を引いて、以上のリスクが高まっていることを示すと共に、「アメリカのルール」で戦う必要性を却下してもらえた事例などにも言及するなど、ホラーストーリー一辺倒ではない素晴らしいものでした。

ECMの方向性

ディスカバリーだけが今回のテーマではありません。IBMの三ツ谷さんからは、クラウド、アナリティクスの領域と繋げて利用範囲を拡大していっている方針が具体的に示されていました。リーダー企業の一角であるIBM社が、ECMリポジトリの技術をサービスラインのどこに位置づけているか、というのは業界の動向という観点では大きな意味を持ちます。

分析・可視化の道具としてのBI、アナリティクスだけでなく、人工知能のエンタープライズユースを進めている中で、今後ECMがどのような役割を演じることになるのか、という点は今後ますます関心を集めるところだと思います。この辺りはAiimにおけるInformation Chaos云々の議論とも深く繋がります。

ECMは非定型データに関してもSingle Place of Truthを実現するための仕組み、と言えるはずですが、その権威が人工知能と組み合わさった時の作用には大変興味があります。

Hylandの新井さんのプレゼンは、前回のサミットのパネルディスカッションでも明示されていたアプリケーションプラットフォームとしてのECM、というテーマにまつわるものでした。

各業務、各アプリケーションによって生み出され利用されるコンテンツに対し、横断的に管理精度を保証するのがECMの役目なのであれば、それらのシステムと併置して連携をとるだけでなくECMの「上に」個々のアプリケーションを乗せるという方向で、もっとシンプルに(アジャイルに)ビジネスニーズを満たせるはずである、という主張だと受け止めました。

業務切片から見た場合にそれが最適解に見えるか、企業のIT投資全体としてECMプラットフォームに依存することが良いことなのか、などの点ではまだ考えるべきことはたくさんありそうですが、少なくともコンテンツ(非構造データ)管理の角度から考えた場合、プラットフォーム(共通基盤)になる、というのはそのメリットを最大化させる方向であると言えそうです。

その他

今回、色々と混乱があり、結局最後まで募集ページにはどのようなタイトル・内容の講演が並ぶのかという説明を掲載できませんでした。であるにも関わらず、大変多くの方に集まって頂き、お借りした会場(かなり広いところなのですが)が満席となりました。大変ありがたいことだと思います。

ECMサミットは(無料セミナーであることもあり)JIIMAの取り組みの中でも集客がしやすく、またアンケートの回収率も高いことで(内部では)知られています。そのため、リピーターの方が数多くいらっしゃるものだとばかり考えていたのですが、今回アンケート項目を増やしてこれまでの参加回数を問うたところ、意外にも初来場の方の比率が高いということがわかりました。大変驚いています。また、集計の合理化という観点も含めて、Webフォームのアンケートサイトを用意し、アンケート用紙にもそのQRコードを印刷するという方法をとらせて頂きましたが、回答の半数近くがWeb経由という結果になりました。ご協力ありがとうございました。

引き続き、テーマの募集を行っています。ECMベンダ各社にまとめて聞いてみたいこと、などでも結構です。お気軽にお声がけください。

(文責 Ishii Akinori IT-Coordinator)