技術的な面からECM、EDMSの製品のアーキテクチャを簡単にご紹介することで、実際にそれらのシステムでどういうことができるのか(技術的な意味では、それらのシステムの内部でどういうことがおきているのか)をご紹介したいと思います。
前稿では今現在ECM(企業向けコンテンツ管理)製品と呼ばれている製品が、かつて電子的文書管理システムEDMSと呼ばれていた製品群の系譜にあり、SOAのニーズに対応する正統進化形であるというお話をさせて頂きました。本稿では、技術的な面からECM、EDMSの製品のアーキテクチャを簡単にご紹介することで、実際にそれらのシステムでどういうことができるのか(技術的な意味では、それらのシステムの内部でどういうことがおきているのか)をご紹介したいと思います。
今回も、電子的文書管理システムEDMSの初期製品群に多く見られたアーキテクチャから順を追って現在のECM製品のアーキテクチャまでをご紹介するという形で、EDMSからECMへの流れに沿ってご説明します。
初期EDMS
当時はクライアントサーバ型のアプリケーションが全盛であったため、基本的な構造はそれにならったものになっています。各クライアントPCには専用の EDMSクライアントソフトウェアを導入する必要がありました。この方式は、すべての文書のやりとりをクライアントソフトウェアのレイヤで押さえることができるため、アクセス制御や操作記録の取得のためには有利でした。しかし、ソリューション実現のために必要な追加開発も、ある程度の部分は「クライアントソフトウエアの改修」という形で行わざるを得なかったため、保守性という意味では多くの課題を抱えていました。また、サーバ側ですが、基本的には文書の実体を保存するファイルシステムと文書の付帯情報(属性、メタデータ)を保存するデータベースの 2つのコンポーネントをラッピングした作りになっていることがわかります。データベースに属性情報専用の記憶領域を用意することで、標準ファイルシステムが持つ属性の制限(所有者、最終更新日など)に捕らわれず各文書とそれを利用する業務に必要な各種付帯情報を一括管理できる、というのが以後ECMまで続く一連のコンセプトの根幹をなしているアイデアです。この属性情報を操作することで、文書のステータス管理やワークフローなどの複雑な機能が実現されてきました。
後期EDMS
このタイプは初期型EDMSが近年のIT環境の変化の中で成熟していった結果であると言えます。やはり、インターネットの影響は大きく、Webアプリケーションとしてクライアントインストールを要求しないモデルの製品が増えてきました。これにより初期のEDMSの最大の問題点であった保守性は、それなりに向上したと言えそうです。また、他の業務システムとの連携に対するニーズも高まる一方であったため、各種の「ブリッジ」「コネクタ」と言われるオプション製品が各EDMSベンダから発表されました。これらの連携ソリューションは製品設計のターゲットに近い利用形態であれば非常に強力なものとなりえましたが、連携対象とEDMS製品の双方に対するバージョン依存や利用事例の少なさからくるソフトウェアの品質の問題で広く普及するには至らなかったようです。また、これは初期の頃からも言われていたことですが、「ホワイトカラーの業務時間の80%が情報の探索に消費されている!」というスローガン(?)のもと、コンプライアンス向上だけでなく業務効率向上に繋がる機能が強く求められました。インターネットの世界での検索エンジンの台頭とあわせて各EDMS製品に実効的な全文検索エンジンが搭載されたのもこの世代の製品群の特徴と言えそうです。これ以降、前述のファイルシステムとリレーショナルデータベースに加えて全文検索エンジンもこれらの製品の柱となる要素の一つに数えられるようになりました。
ECM
最後に現代の製品群のアーキテクチャをご紹介したいと思います。ご覧の通りその実態は後期EDMSとほとんど変わるところがありません。つまり、誤解を恐れずに言い切ってしまえば、EDMSからECMへの進化の過程にこれといって大きな技術的なブレークスルーは存在しなかった、ということの証左でもあるかと思います。それでも、文書からコンテンツ(=企業内の全ての非定型データ)と対象を広く捉え直しより広い範囲で単一のリポジトリを活用するモデルを提示したことと、それをSOAを背景とした標準的な手法で統合するという方法を実現したことのインパクトはそれなりに意味があるものだと思います。
上記の「後者のSOAを背景にして」の部分は前稿からの筆者の主張でありますが、「文書からコンテンツ」のところに関しては込み入った議論がありますので、次稿にて所謂CMSとここでいうECMの違いという形でもう一度ご説明したいと思います。